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ブラッカムの爆撃機
ブラッカムの爆撃機
チャス・マッギルの幽霊
ぼくを作ったもの
岩波書店
価格:1,680円(税込)

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スタジオジブリタイトル
宮崎駿監督インタビュー 過酷な現実に歯向かって、勇気を持って生きる人
「希望を語る教師でいよう」としたウェストール

――ウェストール作品との出会いからお願いします。


宮崎 僕は大人にしては児童文学をよく読んでいるほうかなと思いますけど、とくによく読んだのは二十代、三十代なんです。ウェストールの本とも三十代のころに出会いました。

 六十年代くらいまでイギリスの児童文学って希望に満ちていたと思うんです。『シェパートン大佐の時計』(岩波書店)を書いたフィリップ・ターナーが、「世界は非常に複雑になっているけれど、解決可能な課題を設定して、そこで子ども達が何かをやっていくという物語がまだ作れる」っていうふうなことを書いていたんですね。それでダーンリイ・ミルズという街を舞台にして、『シェパートン大佐の時計』(岩波書店)から始まる三部作を書いた。僕はそれをとても好きだったんです。今でもとても好きですけど。

 ところが、そういうものが七十年代に一度途切れた。それはイギリスの現実があまりにも苛酷でね、子ども達が義務教育を終わって、十五歳で労働者として独立しても就職口がないんです。子ども達は卒業して以来ずっと失業保険を郵便局にもらいに行くような生活になる。そういう生活をせざるをえない子ども達がいっぱいいる現実のなかで、なにを書けるのか、ってことになった。

――児童文学の物語から希望が失われていった?

宮崎 僕もすべての児童文学を読んでいたわけではないけれど、その時期のいくつかの作品を読んで暗澹たる気持ちになりましたね。大好きだったペン画の挿絵も途絶えて、ぎすぎすした挿絵と人生は上手くいかないっていう酷薄な部分を書いた作品ばかりが目についた。それでイギリスの児童文学っていうのは、こういうことになっちゃったのかなと思っていたんです。もちろん『トムは真夜中の庭で』(岩波書店)を書いたフィリパ・ピアスみたいな非常に文学的に優れた作家はいたんですが、なまなましく子どもと対峙している作品はもうなくなったのか……そう思っていたら、そのときウェストールがでてきたんです。

“機関銃要塞”の少年たち――最初に読まれたのは彼の第1作「『“機関銃要塞”の少年たち」』(評論社)ですか?

宮崎 当時の僕はそれがウェストールの最初の作品だってことも知らなかったんですけどね。とくべつウェストールを探していたわけじゃなかったから。でも、一読して「この人は違う」って思いました。思ったけど、その時期はなんか忙しかったから、それ以上の興味を持つ余裕はなかった。そのうち『かかし』に出会って、いろんな作品を読むようになっていく。だけど、僕の悪い癖ですが、じゃあきちんと読むかっていうと、僕が勝手に受け取ったようにしかウェストールを理解していないから(笑)。

かかし 禁じられた約束 僕の印象としては彼の作品はつねに過酷な現実に歯向かっているんですよね。けっしてハッピーエンドの話じゃないんだけれど、勇気については意味があるって書きつづけている。それがものすごく印象的だったんです。とくにあの時期のイギリスで「とにかく勇気をもって生きよう」って書いたのは、とても意味があると思うんです。

 彼は美術の教師だったけれど、進路指導の先生をずっとやっているんですよね。社会全体が最も絶望感に満ちているときの高校の進路指導の教師っていうのは、大変な思いを味わったと思うんです。そのときに、でもとにかく「希望を語る教師でいよう」って思いつづけた彼の想いが作品のなかに何度もでてくる。

 例えば『ブラッカムの爆撃機』だったら機長のタウンゼント大尉ですよ。彼は非常に複雑なものを抱えながら、それでも自分のクルーがとにかく無駄に死なないようにしようとする。それだけはすべての作品に一貫してる。お化けがでてきてホラー小説にも見えかねない『かかし』も、書いていることはやっぱり勇気の物語なんです。『禁じられた約束』も『チャス・マッギルの幽霊』もそうだけど、お化けみたいなものを使わないと書けない部分をもっている世界を書くことで、ウェストールは児童文学に新しい風を吹き込んだのかなと思っています。


脚注(作成・『熱風』編集部)
▼1|“機関銃要塞”の少年たち(1975年) 戦時下でありながら、その状況のなかで生き生きと過ごす少年チャスは、林に墜落したドイツ軍の爆撃機を発見。残がいから装備された機関銃と銃弾を失敬すると、仲間と共に要塞作りを開始した。そしてある日に起こった空中戦で、脱出したドイツ軍パイロットをひょんなことから捕虜にしてしまう。少年たちとドイツ兵の、もうひとつの戦争が始まった。

▼2|かかし(1981年) 夏休みを母の再婚相手の家で過ごす13歳のサイモンは亡き父が忘れられず、どうしても母と継父が許せない。サイモンの抱いた憎悪は、かつて凄惨な事件の舞台となった古い水車小屋に潜む魔物を呼び覚ましてしまう。彼の孤独と絶望が募るほどに、魔物はかかしに姿を変えじりじりと近づいてくる。サイモンはどうやってかかしに立ち向かうのか?

▼3|ブラッカムの爆撃機(1982年) 第2次世界大戦のイギリス空軍でウェリントン機に乗るゲーリーたちの恐怖の体験の物語。ヒットラーに心からの忠誠心を抱いていたドイツ空軍の若者は、撃墜されてもなお、その心はイギリス空軍を攻撃する。そんな呪縛からゲーリーたち若いクルーを守ろうとする機長、タウンゼント大尉。戦争という状況の中で希望を語ろうとする大尉の姿に、ウェストール自身の姿が重なる。

▼4|禁じられた約束(1990年) 14歳のボブは、同級生の少女ヴァレリーに憧れていた。お互いの家柄を越えて惹かれ合う二人は、海辺の町の丘、波止場などを歩きながら、その距離を縮めていった。だが病弱だったヴァレリーは自分に残された時間を知っていた。「わたしが迷子になったら、必ず見つけてね」……彼女と約束を交わすボブ。だがそれは、決して交わしてはならない約束だった。

▼5|チャス・マッギルの幽霊(1981年) 1939年、イギリスがヒットラーのドイツに宣戦布告する。チャス少年は疎開した家で、不思議な体験をする。その家は女性教師が学校を開いていた建物だったが、チャスはそこで第1次大戦時代の兵士と出会う……。


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