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――それはまた、ずいぶんさかのぼりますね。
宮崎 さかのぼりますけど、表現の高さということにおいては、今見たって遜色ないですよ。ヒロインの眉毛などは1本の線で描かれていますが、微妙な表情もちゃんと出せている。「昔みたいにシンプルな絵にしたい」と言うと、賛同をしてくれた人もいましたけど、抵抗をおぼえる人たちもいました。それは退行だと。今まで技術を積み上げてきて、緻密な描写ができるようになったのに、それを否定するのかと。要するに懐古主義じゃないのかってね。懐古主義じゃなくて、いろんなものが緻密になり過ぎたからこそ、そうじゃない方向に行きたいんだというのを、理解してもらうのに随分時間かかりました。
――確かに最近のアニメーションは、実写顔負けのリアルな絵のものも多いですね。
宮崎 どんなに実写に近づけても、かなわない部分ってあると思うんですよ。たとえば実写だったら、登場人物がそこにいるだけで佇まいがある。でもセルアニメーションの場合、キャラクターがそこにポツンと立っているだけで動かないと、とても見られませんから。そういうところで実写に負けないようにするよりも、絵だからこそできることをやるべきじゃないかなと思ったんですね。
――アニメーションでしかできないこととは、どんなことでしょう?
宮崎 「もっともらしい嘘をつくこと」でしょうか。かつて宮崎駿が監督した「未来少年コナン」に、主人公のコナンが、ものすごい高さから飛び降りるシーンがあります。実際に生身の人間が演じたらリアリティがないけれども、アニメーションでやるともっともらしく見える。ありえないことをありそうに見せるのは、実写よりもアニメーションが得意なことではないかと思います。
――ありえないことをあるように見せるなんて、まるで魔法みたいですね。ほかに、制作で「ここはたいへんだった」ということはありますか?
宮崎 実は全体の3分の1が夜のシーンで、背景が暗いんですよ。「火垂るの墓」の夜のシーンが、ジブリの中で一番暗いと言われていたんですけど、それよりも暗いし、色も濃い。その暗くて濃い背景にキャラクターの色を合わせるのがすごく難しくて。暗くても色をなくさないように、艶やかさみたいなものも表現しようとすると、相当知識や経験がないとできない。色彩設計の保田さんには迷惑をかけました。「なんでこんなに暗いの?」って、いっとき怒られまくりましたね(笑)。あと、僕は初めてでよくわかってないからできたと思うのですが、時間がずっと続いているんですよ。
――時間が続いている?
宮崎 夜のシーンが続いていて、パッと場面が切り替わって朝にならない。夜が明けるまでの時間の経過をずっと追っているんです。そうすると、だんだん明るくなるにつれて空の色が変わっていく。それに合わせてキャラクターの色も細かく変えていかなければならない。「こんなの初めて」と言われました。どうも変なことをやっているらしくて(笑)
――それはすごく珍しいですね。いろいろと面白い試みがあって、完成した作品を見るのが楽しみです。そろそろ公開も近づいてきましたが、今、どんな心境でいらっしゃいますか?
宮崎 だんだん緊張が高まってきました。できあがった喜びもある一方、不安もあります。お客さんに見てもらうまで、これで良かったのかどうかわからないですから。なるべくたくさんのお客さんに見てもらって、「おもしろかった」と言ってもらえたら、それ以上にうれしいことはないですね。
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